人間は睡眠時間を削るとどうなる?――「短時間睡眠」は本当に可能なのか

1日に30分しか眠らなくていいなら、何をするだろう。

仕事を早く片づける。読みかけの本を読む。趣味に使う時間を増やす。毎日何時間も増えると思うと、少しうらやましくなる。

ショートスリーパーとして発信する堀大輔氏の公式案内ページには、1日30分睡眠の生活を実践していると紹介されています。[1] ただ、ここで気になったのは、個人の生活の真偽というより、人間の身体の仕組みでした。

そもそも、僕たちは睡眠時間をどこまで削れるのでしょうか。

8時間を7時間に、6時間に、さらに4時間に。起きている時間は確実に増えます。でも、その時間を使う脳は、同じように働いてくれるのでしょうか。

眠っている間も、身体は仕事をしている

睡眠をただの休憩と考えると、「疲れていなければ寝なくてもいいのでは」と思えてきます。

ところが、眠っている間も脳の活動は続いています。睡眠は、学んだことを記憶として保つ働きや、翌日の学習、感情の調整に関わっています。身体でも、成長や修復に関わるホルモンの分泌、血糖の調節、免疫の働きなどと結びついています。[2]

目を閉じて横になっているだけで、これらをすべて代用できるわけではありません。

それでも、何時間も周囲への反応が鈍くなる睡眠は、生き物にとって不便そうです。なぜ進化の過程で残ったのか。

睡眠に似た状態は、多くの動物で確認されています。ただし、睡眠の役割を一つに絞り、その進化まで完全に説明できているわけではありません。[3] 分かってきたのは、睡眠を削ると、起きている間の機能にも代償が生じるということです。

8時間から7時間へ。それだけで寝不足になる?

まず、「全員が必ず8時間眠るべき」という決まりはありません。

厚生労働省の『健康づくりのための睡眠ガイド2023』は、成人について、個人差を踏まえながら6時間以上を目安に、必要な睡眠時間を確保することを勧めています。米国睡眠医学会などの合意声明では、18〜60歳の成人に、習慣的に7時間以上眠ることを推奨しています。[4][5]

数字は少し違いますが、どちらも「この時間を超えれば全員安全」という線引きではありません。日本の「6時間以上」も、8時間必要な人が6時間まで削ってよい、という意味ではありません。

7時間で十分な人もいれば、それでは不足する人もいる。8時間から1時間減らしたときの影響は、もともとの必要量や、それまでの寝不足にも左右されます。

年齢による違いもあります。日本のガイドでは、小学生は9〜12時間、中高生は8〜10時間が目安です。高齢者には、長く寝床にいすぎないことも勧めていますが、これは睡眠そのものを無理に削る指示ではありません。[4]

では、必要量を下回る生活を続けると、何が起きるのでしょう。

6時間、5時間、4時間。減っていくのは睡眠だけではない

睡眠不足の影響を調べるため、研究者は参加者が眠れる時間を制限し、日中の能力を測っています。

ここで注意したいのは、実験の「4時間」が、多くの場合、寝床で眠る機会を与えられた時間だということです。実際に眠れた時間と完全には一致しません。また、以下は別々の実験を並べたもので、一人が1時間ずつ削った結果ではありません。

眠る機会・時間の目安研究や指針から読み取れること
8〜7時間多くの成人の必要量を考える出発点。ただし7時間でも不足する人はいる。[4][5]
6時間2週間の睡眠制限実験で、認知課題の成績が日を追って悪化した。[6]
5時間1週間の実験で、反応の遅れや注意の抜けが増えた。[7]
4時間2週間の実験で、6時間条件より大きな認知能力の低下が見られた。[6]
3時間以下3時間の条件を1週間続けた実験では、反応速度と注意の抜けが継続的に悪化。これより短い睡眠を長期間続けても安全、とはいえない。[7]

「5時間で判断力が失われ、4時間で記憶が壊れる」といった、きれいな境界線があるわけではありません。

睡眠不足では、集中を保ちにくくなり、覚えることや判断することが難しくなります。反応が遅れ、作業に時間がかかり、ミスが増えることもあります。[2]

しかも、困るのは眠気が強いときだけではありません。

「もう慣れた」と思っている間に、成績は落ちていた

2003年にVan Dongenらが発表した実験では、健康な成人に、毎晩4時間・6時間・8時間のいずれかの睡眠機会を14日間与えました。研究では、別に徹夜の条件も設けています。[6]

4時間と6時間の条件では、注意を維持する課題などの成績が、日を追って悪くなりました。

一方、本人が感じる眠気は、最初に増えたあと、能力の悪化ほどには増えませんでした。

「前より眠くなっていない」と「前と同じ能力で動けている」は、一致しなかったのです。

もちろん、この実験から全員の仕事や学業の成績をそのまま予測することはできません。それでも、寝不足の影響を自分の感覚だけで判断する難しさは見えてきます。

別のBelenkyらの実験では、5時間や7時間の条件で、反応速度が低下したあと、その低い水準で安定する傾向も見られました。[7] ずっと悪化し続けなかったとしても、元の能力を保てたわけではありません。

「寝不足に適応する」という言葉には、この違いが隠れています。つらさが一定になることや、低下した能力が横ばいになることは、睡眠が不要になったこととは別です。

不足が積み重なる状態は「睡眠負債」と呼ばれます。ただし、お金のように「5時間不足したから、休日に5時間足せば精算完了」と単純には扱えません。回復に必要な時間も、何の機能を測るかも違います。Belenkyらの実験では、回復用の睡眠機会を3晩設けても、反応課題の成績は完全には戻りませんでした。[7]

寝不足は、脳だけの問題でもなかった

眠気を我慢できれば済むなら、まだ話は簡単です。でも、睡眠不足の影響は身体にも及びます。

1999年の小規模な実験では、健康な若い男性11人に、寝床で過ごせる時間を1晩4時間、6晩続けて制限しました。十分に眠る機会を設けた回復期と比べると、血液中の糖を処理する能力が低下し、夕方のコルチゾールというホルモンの濃度などにも変化が見られました。[8]

別の実験では、睡眠を短くした条件で、空腹感や食欲、食欲に関わるホルモンの変化が報告されています。[9] 寝不足は、「起きているから夜食を食べる」という行動以外にも、食べたくなる仕組みに関わる可能性があります。

免疫についても、日常の睡眠を測ったあとで風邪のウイルスに曝露する研究で、短く眠っていた人ほど風邪を発症しやすい関連が見られました。ただし、睡眠時間を無作為に割り当てた研究ではないので、これだけで因果関係を断定はできません。[10]

長期的には、短い睡眠と高血圧、心血管疾患、肥満、抑うつなどとの関連も報告されています。[5] 一方、生活習慣や、もともとの病気の影響もあるため、「4時間睡眠を何日続けると病気になる」という予告表にはできません。

短期の実験で起きた変化と、長期の観察で見つかった関連。その両方を踏まえて、睡眠を習慣的に削ることには慎重になる必要があります。

それでも、本当に短い睡眠で足りる人はいる

ここまで読むと、「じゃあ、短時間睡眠の人は全員寝不足なのか」と思うかもしれません。

そうともいえません。

生まれつき短い睡眠でも十分に休まり、日中に支障なく活動する「ナチュラルショートスリーパー」は研究されています。

2009年には、DEC2、別名BHLHE41という遺伝子の変異と、短い睡眠との関連が報告されました。ある家系の変異を持つ2人は、自己申告による平均睡眠時間が約6時間15分。同じ家系で変異のない人たちの平均は約8時間でした。変異を導入したマウスでも、睡眠時間の短縮が確認されています。[3]

その後、別の遺伝子も研究されています。ただ、こうした特徴はまれで、今回確認した資料から、一般人口の何%かという確かな割合までは示せません。[11]

大事なのは、もともと必要な睡眠が短い人と、必要な睡眠を我慢している人は違うことです。

遺伝子研究は「人によって必要量が違う」という説明を支えますが、「普通の人も訓練すれば同じ状態になれる」という証明ではありません。研究者も、誰でも安全にナチュラルショートスリーパーになれる方法は示していません。[12]

では、「1日30分睡眠」はどう考えればいい?

冒頭の話に戻ります。

堀氏の公式ページで紹介されている生活と、成人一般が1日30分の睡眠で長期的に健康を保てるかは、分けて考える必要があります。

今回確認した公的ガイド、学会声明、睡眠制限や遺伝子の研究には、成人が長期間、1日の合計30分程度の睡眠で、認知機能と健康を維持できることを裏づける十分な証拠は見当たりませんでした。[3–7][11][12]

これは、特定の個人の睡眠時間や健康状態を判定する話ではありません。個人の紹介や体験談だけでは、誰にでも安全に再現できるかは分からない、という話です。

確認するなら、昼寝も含む実際の総睡眠時間、脳波などによる客観的な記録、認知課題の成績、長期的な健康指標が必要になります。起きて会話できることだけでは、能力や健康への影響までは判断できません。

増えた2時間は、本当に「使える2時間」なのか

1日8時間眠ると、起きている時間は16時間。6時間なら18時間、4時間なら20時間です。

引き算としては正しい。でも、増えた時間で何ができたかは、別に数える必要があります。

例えば、長く机に向かえたとしても、読み直しやミスの修正に時間を使えば、その分は差し引かれます。これは実験から一律の効率を計算したものではなく、「使える時間」を考えるときに必要な視点です。

睡眠時間には、確かに個人差があります。だから、他人と同じ時間にそろえることだけが目標ではありません。

ただ、日中に強く眠い、仕事中に寝落ちする、休日だけ極端に長く眠る、起きても休まった感じがしない。そんな場合は、自分をショートスリーパーと決める前に、睡眠不足を見直したいところです。十分な睡眠機会を確保しても困りごとが続くなら、睡眠時無呼吸などの睡眠障害も含め、医療機関に相談する理由になります。[2][4]

最初は、眠らない人ほど人生の持ち時間が長いように感じていました。

調べてみると、睡眠は、その持ち時間を使うための脳や身体にも関わっていました。

増やしたいのは、目を開けている時間なのか。それとも、やりたいことにちゃんと取り組める時間なのか。

睡眠を1時間削る前に、そこは少し考えてみたくなります。


参考文献・参考資料

確認日:2026年10月6日。公式プロフィールは本人側の説明を確認する資料であり、医学的有効性の根拠には使用していません。

  1. 日本ショートスリーパー育成協会「公式案内ページ/堀大輔プロフィール」。1日30分睡眠という紹介の確認。
    https://sites.google.com/gahaku.co.jp/link-x
  2. NIH/NHLBI. Sleep Deprivation and Deficiency: How Sleep Affects Your Health. 睡眠と認知・身体機能、日中の症状。
    https://www.nhlbi.nih.gov/health/sleep-deprivation/health-effects
  3. He, Y., et al. (2009). The Transcriptional Repressor DEC2 Regulates Sleep Length in Mammals. Science, 325, 866–870. 遺伝子変異を持つ家系と動物実験。人の睡眠時間には自己申告が含まれる。
    https://doi.org/10.1126/science.1174443
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2884988/
  4. 厚生労働省『健康づくりのための睡眠ガイド2023』2024年9月18日一部修正。年代別の目安、休養感、睡眠障害。
    https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf
  5. Watson, N. F., et al. (2015). Recommended Amount of Sleep for a Healthy Adult: A Joint Consensus Statement of the American Academy of Sleep Medicine and Sleep Research Society. Journal of Clinical Sleep Medicine, 11, 591–592.
    https://doi.org/10.5664/jcsm.4758
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4442216/
  6. Van Dongen, H. P. A., et al. (2003). The Cumulative Cost of Additional Wakefulness: Dose-Response Effects on Neurobehavioral Functions and Sleep Physiology From Chronic Sleep Restriction and Total Sleep Deprivation. Sleep, 26, 117–126. 4・6・8時間の睡眠機会を比較した実験。主観的眠気と客観的成績の乖離。
    https://doi.org/10.1093/sleep/26.2.117
  7. Belenky, G., et al. (2003). Patterns of performance degradation and restoration during sleep restriction and subsequent recovery: a sleep dose-response study. Journal of Sleep Research, 12, 1–12. 3・5・7・9時間の睡眠機会と回復期の比較。
    https://doi.org/10.1046/j.1365-2869.2003.00337.x
  8. Spiegel, K., Leproult, R., & Van Cauter, E. (1999). Impact of sleep debt on metabolic and endocrine function. The Lancet, 354, 1435–1439. 若い男性11人の短期実験。
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10543671/
  9. Spiegel, K., et al. (2004). Brief communication: Sleep curtailment in healthy young men is associated with decreased leptin levels, elevated ghrelin levels, and increased hunger and appetite. Annals of Internal Medicine, 141, 846–850.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15583226/
  10. Prather, A. A., et al. (2015). Behaviorally Assessed Sleep and Susceptibility to the Common Cold. Sleep, 38, 1353–1359. 日常の睡眠を測定後、ウイルス曝露と発症を調査。睡眠時間自体の無作為割り付けではない。
    https://doi.org/10.5665/sleep.4968
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4531403/
  11. University of California, San Francisco. (2019). After 10-Year Search, Scientists Find Second ‘Short Sleep’ Gene. 自然な短時間睡眠と遺伝子の研究紹介。
    https://www.ucsf.edu/news/2019/08/415261/archive-after-10-year-search-scientists-find-second-short-sleep-gene
  12. UCSF Magazine. The Science of Sleep. 自然な短時間睡眠を研究するYing-Hui Fuへのインタビュー。
    https://magazine.ucsf.edu/science-sleep

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余禄log 管理人
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