顔をよく見ると、不思議な場所に毛が生えています。
目の上に、左右一つずつ。細長くて、少し曲がっている。
眉毛です。
毎日見ているので普通に感じますが、何も知らずに人間の顔を描くなら、「ここに二本、毛を足そう」と思うでしょうか。
しかも、人によって濃さは違っても、基本的には同じ場所にあります。なぜ、こんな形になったのでしょう。
僕の予想は、汗が目に入るのを防ぐため。目の上にある小さな屋根のようなものです。
調べてみると、その予想には根拠がありました。ただ、眉毛の仕事はそれだけではなさそうです。
汗よけという予想は、どうなのか
眉毛の解剖や機能をまとめた医学論文では、毛の形や向きが、汗などから目を守る働きに関係すると説明されています。[1]
面白いのは、毛が全部同じ方向に生えているわけではないことです。
鼻に近い眉頭では、毛は比較的上向き。外側へ進むにつれて、横向きに近づいていきます。[1]
遠目には一本の線でも、近づけば、向きの違う短い毛が集まっている。
「目の上の屋根」という予想は、そう外れていなさそうです。
ただし、現在の働きと、進化の理由は別の問題です。
汗を防ぐのに役立つからといって、それだけを理由に眉毛が残り、今の曲がり具合になったと証明されたわけではありません。
「役に立つ形だ」と「その役割のために、この形へ進化した」の間には、まだ距離があります。
眉毛は、黙っていても動いている
眉毛を上げる。眉間に寄せる。内側だけを持ち上げる。
口を開かなくても、顔の印象が変わります。
2018年の研究では、人類の眉の上にある骨の出っ張りと、コミュニケーションの関係が検討されました。[2]
昔の人類には、目の上の骨が大きく張り出したものがいます。研究者たちは化石頭骨のモデルを使い、その大きさを、骨の配置や噛む力への対応だけで説明できるか調べました。
そして、現代人のような額の形が、眉毛をよく動かして細かな気持ちを伝えることを可能にしたのではないか、と提案しています。[2]
目を守る場所にある毛が、人に何かを伝える場所にもなっている。
これは眉毛の進化を考える仮説の一つです。骨を調べた研究から、眉毛の毛そのものが残った理由まで決着したわけではありません。それでも、汗よけだけでは見えてこなかった役割です。
でも、なぜみんな似た形なのか
ここで、最初の疑問に戻ります。
なぜ人間は、みんな似た場所に眉毛があるのでしょう。
まず、世界の人々が別々に進化して、偶然同じ形へたどり着いたわけではありません。私たちは共通の祖先を持ち、体をつくる基本的な仕組みを受け継いでいます。
左右一対という配置も、眉毛だけを切り離すより、左右に目がある顔全体の構造の中で考える必要があります。
ただし、眉毛の細かな輪郭まで、みんな同じというわけではありません。
太い眉、薄い眉。まっすぐに近い眉、弓なりの眉。眉間まで毛がつながっている人もいます。
2016年には、6,000人以上を対象に、眉毛の濃さや、眉間でのつながりなどと遺伝的な違いの関連を調べた研究も発表されています。[3]
つまり、眉毛は全人類共通の完成品というより、共通する配置の中に、いろいろな違いがあるものです。
「あの形だけが最適だから、全員あの形になった」と考えると、少し言いすぎになってしまいます。
なぜ目の上にあるのか。なぜその毛の向きなのか。なぜその人の眉山はその位置なのか。
似ている疑問ですが、それぞれ同じ答えで説明できるとは限りません。
顔の上にある、二本の毛
今回調べた範囲では、眉毛が今の形に至った理由を、一つに絞ることはできませんでした。
汗などから目を守る働きがある。表情を伝える働きもある。共通する配置はありながら、形には違いもある。
最初は「汗が目に入らないためかな」と思っていたのに、話は人と人とのやり取りにまで広がりました。
目の上に、短い毛が少し生えているだけ。
それが動くと、顔の受け取られ方まで変わる。
次に鏡を見たら、眉毛の形だけでなく、一本ずつの毛の向きまで気になってしまいそうです。
参考資料
- Eyebrow and Eyelash Alopecia: A Clinical Review. — 眉毛の構造、毛の向き、保護機能について。
論文全文 - Godinho, R. M., Spikins, P., & O’Higgins, P.(2018). Supraorbital morphology and social dynamics in human evolution. Nature Ecology & Evolution, 2, 956–961. — 眉の上の骨と社会的コミュニケーションの進化仮説。
原著論文 - Adhikari, K., et al.(2016). A genome-wide association scan in admixed Latin Americans identifies loci influencing facial and scalp hair features. Nature Communications, 7, 10815. — 眉毛の濃さや、眉間の毛のつながりに関する遺伝的な違い。
原著論文

コメント