覚えておきたいことは忘れるのに、昔遊んだゲームの設定や、たまたま聞いた雑学は覚えている。
「その記憶力を、もっと別のことに使えたらいいのに」と思いたくなります。
でも、ここで一つ気になりました。その情報は、本当に「どうでもいい」ものだったのでしょうか。
僕は、この言葉には二つの視点が混ざっていると思います。他人にとってどうでもいいことと、自分にとってどうでもいいことです。
他人からすれば使い道のない知識でも、自分は面白いと感じていた。だから、ときどき思い出してしまう。その繰り返しが、記憶を残しているのではないか。
そんな予想から調べると、「最初に覚えるとき」と「後から思い出すとき」の、二つの話が見えてきました。
「役に立たない」と「興味がない」は違う
好きな漫画の細かい設定を知っていても、仕事に役立つとは限りません。それでも、気になる人にとっては知りたい情報です。
逆に、明日の仕事に必要な情報でも、内容そのものに興味が湧くとは限りません。
つまり、他人と自分の視点に加えて、「必要かどうか」と「知りたいかどうか」も分けて考えられそうです。
このうち、「知りたい」という気持ちと記憶の関係は、雑学クイズを使った実験で調べられています。
2009年のKangらの研究では、参加者が答えを知りたがっていた問題ほど、後日の記憶成績がよくなる傾向が見られました。具体的には、最初に答えを間違えた問題について、好奇心の強さと11〜16日後の正答率に関係がありました。[1]
少人数の実験なので、日常の記憶すべてを説明する結果ではありません。それでも、「どうしても必要な情報ではないけれど、答えが気になる」という気持ちが、記憶と結びつくことを示しています。
何度も思い出す前から、差がついている
最初の予想では、面白いことを何度も思い返すから覚えている、と考えていました。
ただ、それだけではなさそうです。
2014年のGruberらの研究でも、好奇心の高い雑学の答えは、低いものよりよく記憶されました。翌日のテストでも、その差が確認されています。[2]
さらに、この実験では答えを待つ間に、問題と関係のない顔写真を見せていました。すると、好奇心が高いときに見た顔のほうが、後で見覚えがあると正しく判断されやすかったのです。[2]
面白い話の中身だけでなく、そのとき一緒に見たものまで記憶されやすくなる場合がある。
この結果を踏まえると、覚えている情報を全部「本人にとって大切だったから」と説明するのも、少し無理があります。情報そのものへの関心だけでなく、それに出会ったときの状態も関係しているのでしょう。
ただし、好奇心が湧けば周囲の情報を何でも覚えられる、という意味ではありません。
思い出すことは、記憶の確認だけではない
では、「何度も思い出すから残る」という予想はどうでしょう。
こちらにも、つながる研究があります。記憶から情報を取り出す練習をする「検索練習」です。ここでの検索は、ネットで調べることではなく、自分の頭から思い出すことを指します。
RoedigerとKarpickeは2006年、文章を読んだ後に、繰り返し読み直す場合と、文章を見ずに内容を思い出すテストを受ける場合を比べました。
5分後には読み直すほうが有利でしたが、2日後や1週間後のテストでは、先に思い出す練習をしたほうがよい成績を示しました。[3]
思い出す行為は、覚えているか確かめるだけでなく、その後の記憶を助けることもあるわけです。
例えば、面白かった雑学を友人に話すために思い出す。別の記事を読んで、「前に調べた話と似ている」と内容を振り返る。そんな場面も、記憶を取り出す機会になり得ます。
ここは実験から日常への推測ですが、興味のある情報ほどそうした機会が多いなら、最初の予想には筋が通ります。
ただし、今回の研究は「好きな雑学を日常で思い出した回数」を追跡したものではありません。好奇心と記憶の関係、思い出す練習の効果は確認されていますが、それらが日常でどれほど連動するかは別の問いです。
忘却曲線は、何を教えてくれるのか
ここで思い浮かぶのが、時間がたつほど忘れていく「忘却曲線」です。
有名なエビングハウスの実験では、意味のない音節の並びを覚え、時間を置いて再び学習しました。主に測っていたのは、「最初より、どれくらい少ない手間で覚え直せるか」です。[4]
そのため、曲線の数字をそのまま「誰でも一日後には、知識の何%を失う」と読むことはできません。好きな漫画の設定と、意味のない音節を、同じ条件で扱うわけにもいきません。
忘却曲線は時間と記憶成績の関係を表すものです。「どうでもいいことが残る理由」を考えるなら、曲線の名前だけで説明するより、どんな気持ちで覚え、その後どれくらい取り出してきたかを見るほうがよさそうです。
どうでもよかったのは、使い道のほうかもしれない
調べてみると、最初の予想には少し補足が必要でした。
自分が面白いと思った情報は、覚える段階から残りやすいことがある。そして、後から思い出す機会があれば、それも記憶を支え得る。
もちろん、覚えている雑学すべてに、この説明が当てはまるとは限りません。
それでも、「役に立たないのに、なぜ覚えているのか」という疑問は、「役には立たなくても、自分はどう関わってきたのか」と考えると、少し見え方が変わります。
他人にはどうでもいい。自分にとっても、生活に必要なわけではない。でも、知ったときには面白かった。
頭に残っている小さな知識は、そんな関心の跡なのかもしれません。
参考資料
[1] Kang, M. J., et al. (2009). The Wick in the Candle of Learning: Epistemic Curiosity Activates Reward Circuitry and Enhances Memory. Psychological Science, 20(8), 963–973.
[2] Gruber, M. J., Gelman, B. D., & Ranganath, C. (2014). States of Curiosity Modulate Hippocampus-Dependent Learning via the Dopaminergic Circuit. Neuron, 84(2), 486–496.
[3] Roediger, H. L., III, & Karpicke, J. D. (2006). Test-Enhanced Learning: Taking Memory Tests Improves Long-Term Retention. Psychological Science, 17(3), 249–255.
[4] Murre, J. M. J., & Dros, J. (2015). Replication and Analysis of Ebbinghaus’ Forgetting Curve. PLOS ONE, 10(7), e0120644.

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