普段、何気なく渡っている横断歩道。
白い線が何本も並んでいますが、よく考えると不思議です。
「ここを渡ってください」と伝えたいだけなら、太い線を一本引いてもよさそう。いっそ、渡る場所を全部白く塗った方が目立つのではないでしょうか。
なぜ、わざわざシマシマにしているのか。
調べてみると、見つけやすさだけでなく、雨の日の水はけや、白線を長持ちさせる工夫まで関わっていました。
シマシマは、遠くから見つけてもらうため
日本の横断歩道の模様は、自由に描いているわけではありません。「道路標識、区画線及び道路標示に関する命令」というルールで様式が決められています。現在は、白い帯が並ぶ「ゼブラ型」です。[1]
歩いて渡る側からすると、足元にある白線。しかし、車を運転する人には、もっと手前で気づいてもらう必要があります。
その見つけやすさを調べた研究があります。
アメリカの連邦道路庁は、横断歩道の形を変えて、運転者がどのくらい離れたところから気づくかを比較しました。実験用に設置した横断歩道では、白い帯を何本も並べた形は、渡る場所の両端に二本の線を引く形より、昼も夜も遠くから発見されました。[2]
つまり、「線を引いておけば、どんな形でも同じ」というわけではないのです。
ただし、この実験は、日本で最初にシマシマを採用した理由を証明するものでも、全面を白く塗る方法と比較したものでもありません。現在の形に、見つけやすさの面で利点があることを示す研究です。
昔の横断歩道には、線が二本多かった
ところで、昔の写真を見ると、横断歩道の両脇にも白い線が引かれていることがあります。
並んだ白い帯を、両側の長い線でつないだ形。地面に寝かせたはしごのようなので、「はしご型」と呼ばれます。
広島県警の資料によると、1965年にはこの形になり、1992年に両側の線を省いたゼブラ型が採用されました。背景には、横断歩道の表示を国際的なものに合わせるための調査研究がありました。[3]
では、両側の線を消すと、何がよくなるのでしょうか。
警察庁交通規制課への取材を掲載したウェザーニュースの記事では、水はけの改善、補修のしやすさ、施工時間の短縮、見た目のすっきりさが理由として挙げられています。[4]
白線は、紙に描いた線とは違います。塗料には厚みがあります。両脇まで囲われていると、雨水の逃げ道がふさがれやすくなる。側線をなくせば水が流れやすくなり、標示面でのスリップ防止につながる、という説明です。
また、車に踏まれて消えていく側線そのものがなくなれば、その分の補修も不要になります。
目立つように線を足すだけでなく、使い続けやすくするために、線を減らしたわけです。
なお、1992年に全国のはしご型が一斉になくなったわけではありません。法令の様式からはしご型が削除されたのは2024年で、すでに設置されているものは、当分の間そのまま使える扱いです。[1]
いまは「すき間」も変わり始めている
さらに、横断歩道の改良は終わっていません。
2024年の改正で、白線と白線の間隔を、従来の45〜50センチから、最大90センチまで広げられるようになりました。[1][5]
「すき間を広くして、大丈夫なの?」
そう思いますが、ここで関係するのが車のタイヤです。
白線の配置を調整して、タイヤがよく通るところを避けられれば、白線がすり減りにくくなる。警察庁は、こうした配置によって、設置や更新にかかる費用を合理化できると説明しています。[1][5]
もちろん、全部の横断歩道を一律に広げるという話ではありません。道路の形や交通状況に応じて選ぶ仕組みです。[1]
こうして見ると、最初の「全部白く塗ればいいのでは?」という疑問も、少し違って見えてきます。
今回確認した資料だけでは、全面白塗りを採用しなかった理由を一つに断定することはできません。「滑るから」「塗料代が高いから」とだけ説明するのは言いすぎです。
ただ、実際の改良では、見つけやすさに加えて、水はけや摩耗、工事の手間まで考えられています。白い部分を増やすことだけが、設計の目標ではないのです。
海外にもシマシマ。でも、それだけではない
「ゼブラ型」のゼブラは、動物のシマウマです。
イギリスでは、この白黒の模様から「ゼブラクロッシング」と呼ばれるようになりました。名前の由来は、見た目そのままです。[6]
一方、世界中の横断歩道が同じ形というわけではありません。
アメリカの道路標示の基準には、白い帯を並べる形のほか、渡る範囲を二本の線で示す形も載っています。[7]
冒頭で考えた「もっと線を少なくしてもいいのでは?」という発想は、実際に使われているのです。
日本のシマシマも、初めから今の形で完成していたわけではありません。両脇の線がなくなり、最近ではすき間の幅も選べるようになった。
毎日見ているので、ずっと同じだと思っていました。
次に信号を待つときは、白い線だけでなく、その間のすき間にも少し目がいきそうです。
参考資料
[1] 警察庁(2024年7月26日)「道路交通法施行令の一部を改正する政令等の施行に伴う対応に係る細目的事項について(通達)」第1・2。ゼブラ型への様式統一、既設はしご型の扱い、白線の設置間隔を確認。
https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/kisei/kisei20240726_3.pdf
[2] Federal Highway Administration(2010)Crosswalk Marking Field Visibility Study, FHWA-HRT-10-067。横断歩道の模様と発見距離を比較した研究の技術概要。
https://www.fhwa.dot.gov/publications/research/safety/pedbike/10067/
[3] 広島県警察「交通規制Q&Aのページ(横断歩道の変遷)」。1965年のはしご型、1992年の側線を省いたゼブラ型採用の経緯。
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/police/055-05599-oudan-hist.html
[4] ウェザーニュース(2018年5月22日)「雨の日に効果! 横断歩道のデザインが変わったワケ」。警察庁交通規制課への取材に基づく補助資料。水はけ・補修・施工時間等の変更理由を参照。公的機関が直接公開した資料ではない。
https://weathernews.jp/s/topics/201805/220075/amp.html
[5] 警察庁『令和7年警察白書』第5章第4節第1項「交通実態を踏まえた交通環境の整備」。白線間隔の拡大と摩耗防止の目的。
https://www.npa.go.jp/hakusyo/r07/honbun/html/bb5541000.html
[6] Historic England, Zebra Crossing Near Abbey Road Studios, List Entry 1396390。「ゼブラクロッシング」の名称と縞模様の関係。
https://historicengland.org.uk/listing/the-list/list-entry/1396390
[7] Federal Highway Administration(2023)Manual on Uniform Traffic Control Devices, 11th Edition, Part 3, Section 3C.03・Figure 3C-1。二本線型と視認性を重視した縞模様型の図示。
https://mutcd.fhwa.dot.gov/pdfs/11th_Edition/part3.pdf

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